https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1814052
今回の論文は 超有名な パートナー3です。
TAVI対SAVRのガチンコ勝負で、1,高リスク、2,中リスクで勝利したTAVIが、今回の低リスクで3度交えます。今年春のACCで発表が終わった後に、スタンディングオベーションが起こったそうで、結果はTAVIの圧勝でした。
最近の弁膜症関連の学会では、内科外科に関わらず、必ず言及されていますし、一方で、この論文は素晴らしい。どんどん低リスクにもTAVIをすべき。という人もいれば、内科外科に関わらず、解釈には注意を要する。という人もいて、評価がマチマチなことも面白いところです。
背景
重症大動脈弁狭窄症に対するTAVIの役割はパートナー1,2試験などのエビデンスによって進化している。つまり手術リスクの高度、または中等度の患者においてはTAVIはSAVRより優れているまたは劣っていないと言う結果でありました。さらにテクノロジーの進化により、アメリカではTAVIはSAVRより多くなってきています。
しかし大部分のASの患者は低リスクですが、低リスク患者においてTAVIのエビデンスは十分にではない。このため低リスクの患者後の無作為試験を行うこととなった。
2ページ
METHODS
この試験は多施設無作為試験である、TAVIは経大腿動脈アプローチで第3世代バルーン拡張型つまりサピエン3。この試験のスポンサーはもちろんエドワーズ社。
PATIENTS
インクルージョンクライテリアは高度石灰化大動脈弁狭窄症。外科的STSPROMスコア(項目はJACVSDとほぼ同じ)が4%以下の低リスクである。エクスクルージョンについて詳細はサプルメントに書いてあるとあります。解剖学的にTAVIが困難な症例は除外されています。
エンドポイント
1年後のあらゆる原因の死亡、脳梗塞、再入院。
3ページ 結果
71箇所、1000例がエントリー ほとんどがアメリカ。
TAVI503 AVR497
テーブル1
患者背景はTAVI、SAVRに違いがありません。
4ページ procedure outcome
TAVIの7.9%、SAVRの26.4%が同時手技としてconcomitant procedureが行われています。
これまた詳細はサプルメントに書いてあるとあります。
4ページ右 Primary EP
これは6ページ Figure Aを見てください。これがこの論文のポイントです。
死亡、ストローク、再入院の個々では有意な差が出ませんが、左上、表Aでは、複合EPでTAVIの圧倒的勝利です。
低リスクの患者群で、SAVRの死亡率が1ヶ月で1.1%、再入院は6.5%。とちょっと高い気がします。
外科医が下手なんじゃないのと。外科側でよく言われていることです。
8ページ Table2 secondary EP
ここでもTAVIの圧倒的勝利です。
7ページ右下
Discussion
パートナー3試験の結果、低リスク群においても、TAVIはSAVRより優れているという結論です。
8ページ左下 段落
過去10年ではTAVI推奨は重度の症状のあるASでしたが、適応が拡大されていく。
現時点では、若い低リスクの患者にはTAVIは制限されている。
右段落
この試験でのSAVRの成績はよかった!!けれども、AR,脚ブロック、PM、冠動脈閉塞などの合併症の問題があるもののTAVIが勝ったとあります。
これらの合併症は大きな問題である気がしますが、サラッと書かれているだけですね。
9ページ 左上
この試験の最も重要なリミテーションは1年という短期であるということです。
SAVRの良好な長期成績と対抗するために、TAVIの場合はSVD、血栓弁の懸念があるので長期成績の検討が必要だとあります。これもさらっと書かれてます。
左下 次の段落
他にもリミテーションがあります。
大腿動脈アクセスが悪いものや、二尖弁、大きな石灰化があったりする、解剖学的に除外されている症例があるとさらっと書かれてます。
で、論文内で何度も、詳細はサプルメントに書いてあると出てくるのですが、そのサプルメントは74ページもあります。この論文自体は11ページなので、こっちのほうが本文じゃないの?って感じなのですが、実際に重要なことがたくさん書かれています。
サプルメント
38ページ concomitant procedure
TAVIは7.9%と数が少なく、ほとんどがPCI、PMです。一方、SAVRのほうは、26.4%と数が多い上に、かなりいろいろやってまして、、、患者背景は低リスクなんでしょうが、手術は結構踏み込んでいて、手術に関する予測死亡率はそこそこ高くなると思います。つまりこの試験のSAVR死亡率の高さは、手術が下手だからではなく、複雑な術式の妥当な結果ということがわかります。
じゃなんで外科医はこんな複雑な術式を選んだのか?といえばおそらく本能的なものだと思います。縮小手術で短期成績を追求するのを是としない。長期成績を改善してこその手術だということでしょう。
この状況で比較するというのは違和感があります。TAVIにPCIがあるのでSAVRにCABGがあるのは良いとしてもCABGのほうが倍多いです。
次 47-48ページ
懸念事項のPM、ブロックです。
PMは1年 TAVI7.3% SAVR5.4%、ブロックはTAVI23.7% SAVR8.0%と、それなりです。
わざわざページを換えてわかりにくくしているのは、少し悪意を感じます。
61ページ
一番上です。1520例から1000例になっています。ほとんど見えない字で、520例が除外されていることが書かれています。よく見ると解剖学的に除外されたのが308例あります。大腿動脈アクセスが悪いものや、二尖弁、大きな石灰化があったりするものだと思われますが、詳細はこれ以上書かれていません。
72ページ
ARですが、マイルドまで入れると30%ほどあります。石灰化の少ないように選ばれた症例にしては、ちょっと多い印象ですね。これが長期にどうかということですね。
私の解釈は、TAVIに適した解剖を持つ低リスクの患者群の短期成績は良い。という、わりと当たり前のもので、
SAVR群には、複雑な術式が紛れていることからも分かる通り、TAVIとの対決するSAVRに必ずしも適した患者群ではないということです。
MVRした患者を入れるならマイトラクリップをする患者も入れないと公平でないかもしれません。そうなると話があまりに混乱するので、そもそも複雑な術式になる場合は除外しておくのがいいのかもしれません。
また単独のエンドポイントで差がつかず、3つの複合エンドポイントを用いてようやく差がついた。ということなんだろうと思います。
リミテーションでも述べられていますが、低リスクの患者は長生きしますので、長期成績がポイントになると思います。
長期成績に影響するとされている、脚ブロックやPM、ARが、今後、どう影響するかは興味深いところです。
またSAVR群に複雑な術式が入ってきているのは、短期成績にはある程度目をつぶって長期成績を改善することを目指した結果とも言えるので、長期での結果は注目です。
ただ、最近の流れのとおり、長期成績が出る10年後には次の世代のデバイスが出現し、この議論が進まないというパターンかもしれません。